塩原温泉祭り縁起


 毎年塩原温泉では九月十八・十九日の二日間六台の山車が温泉街を華やかに練り歩く“塩原温泉祭り”が盛大に行われています。

 そもそもこの温泉祭りの起源は、大正四年十一月十日にはじまります。
この日は大正天皇の即位式の日にあたります。大正天皇は皇太子時代の明治三十五年初めて塩原の地を訪ねられました。皇太子には塩原の雄大な自然と良質の温泉をたいそうお気にめされたため、後年福渡温泉の三島子爵家の別荘が皇室に歓上しされ「塩原御用邸」が誕生しました。福渡温泉の地に御用邸をかまえられた皇太子は、毎年の夏を塩原で過ごされてこの地を深く愛されました。明治の時代が終わり、塩原にゆかりの深い天皇が誕生すると塩原の村人はその即位を盛大に祝い、村内の五地区(福渡・塩釜・畑下・門前・古町)が“山車”を仕立て、人形を飾り、お囃子に合わせて村を練り歩きました。その後、祭りは塩原温泉発展に寄与された“三恩人”、道路開発の功労者栃木県令三島通庸、「金色夜叉」の作者文豪尾崎紅葉・塩原紹介の「塩渓記勝」作者奥蘭田諸氏への感謝祭へと姿を変えました。昭和三十八年には中塩原地区が加わり、六台の山車となりました。

 各地区では “若連”と呼ばれる若衆達が、祭りの約一ヶ月程前から山車作りにかかります。この期間中、夜になると温泉街のあちらこちらからは威勢のいい太鼓の練習の音が川風に乗って聞こえてきます。この祭りを過ぎると塩原の里にも秋の気配がもうすぐそこまでやってきます。